FDMY 防災ユースフォーラム


内閣府から発表された被害想定結果について(その③:被害予測をどう捉える?)

投稿者: kurata, カテゴリー: RENSAI✕BOUSAI

倉田 和己(防災ユース幹事/名古屋大学減災連携研究センター助教)

 その①、その②と南海トラフ巨大地震の被害想定について、従来の被害想定との違いや、耐震化を進めることによる建物被害の軽減について見てきました。第三回は、この連載をご覧のみなさんそれぞれが防災関係者として、すなわち、社会から見れば程度の差こそあれ「専門家」として、この被害想定の性質をどのように理解し、周囲に発信していくべきかという点を掘り下げてみたいと思います。

 その①で触れたように、今回の被害想定は2003年に発表されたものから震源域が大きく変更され、それに伴って想定される被害の量が増加しています。そこで、震源域がどのような考えのもとで変更されたのか見てみましょう。プレートの境界では、海側のプレートの沈み込みによって陸側のプレートとの間で摩擦が生じ、そのエネルギーが開放されることで地震が発生します。図1に示すように、摩擦が生じて地震を発生させるのは「ある一定の深さの範囲」であると考えられてきました。しかし図2中で紫色の領域は、海溝軸に近い「より浅い領域」です。東北地方太平洋沖地震ではこの浅い領域が動いて津波の高さを高くしたと考えられています。さらに図2中で灰色の領域のうち陸地と重なる部分は「より深い領域」です。近年の観測技術の発達により、この領域では「深部低周波微動」という、弱くてゆったりした揺れが生じていることがわかり、もしかしたらここも次の地震で震源域になるのではないかと考えられるようになりました。(注1)

図1 プレート境界の沈み込みと地震発生帯(地震学会 HP 資料に加筆) ※クリックで拡大

図2 震源域の想定(黄色:従来の想定/黒+紫:今回の想定) ※クリックで拡大

このように震源域が拡大された、すなわち想定される被害の量が爆発的に増えた元々の理由を見ていくと、今回の被害想定は決して次に起こる地震を予測したものではなく、「想定外」をなくすために、科学的確証はまだ十分で無いけれども、万が一の可能性までを含めた「最大級」のものであることがわかってきます。被害想定について語るときは、このことを決して忘れてはいけないと思います。そして、メディアを賑わせた「死者最大32万人」という数字は、震源域に加え、発生する時間帯、季節、気象ほか「ほとんど全ての条件が最悪の状態で重なった」場合ものです。ですから32万という数字に必要以上に囚われてはいけないと考えます。繰り返しになりますが今回の被害想定は、何が被害の主な原因で、どう対策すればどれだけ被害が減るのか、それを考えるためのヒントにすべき情報なのです。

 ところで、被害想定はこれで終わりではありません。今回発表されたのは一次報告であり、今後二次報告が発表される予定となっています。二次報告では経済被害、ライフライン被害、交通網・物流の問題、廃棄物の問題など、より社会現象に踏み込んだ被害の想定結果が公表される予定となっていて、被害を軽減する上では今回以上に注目すべき情報が含まれています。二次報告が発表され、その内容を読み解くときも、今回お読みいただいた内容をぜひ頭のうちにおいていただければと思います。

注1:一方で、従来の想定で使われた震源域(図2中で黄色の領域)は1707年に発生した宝永地震の被害の記録から、同じような強さの揺れ・津波を発生させるものとして決められたという経緯があり、少なくとも歴史上一度は起こった地震に基づくものとして考えられています。

<参考文献>
地震学会ホームページ:http://www.zisin.jp/
地震学会広報誌「なゐふる No.90」 http://zisin.jah.jp/pdf/nf-vol90.pdf


この記事に関連しているかも知れない記事:

コメントする

東日本大震災現地報告会(2011年3月27日)

東日本大震災現地報告会を実施いたしました。

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の情報を発信しています(随時更新中)

防災啓発活動


「遊んで学ぶ!地震に強い建物」として、耐震啓発活動に関わらせていただいています(管理人倉田のプロジェクト)。

中国・四川大地震報告会


防災ユース、市民防災研究所、防災サークルFREGが共同で行った、若者による四川大地震の報告会レポートです。

防災ユースパンフレット


防災ユースの活動紹介パンフレット、2011年版です。

防災ユース関連本


倉田ほか、防災ユース関係者も記事を書かせていただきました。