FDMY 防災ユースフォーラム


内閣府から発表された被害想定結果について(その②:建物被害)

投稿者: kurata, カテゴリー: RENSAI✕BOUSAI

倉田 和己(防災ユース幹事/名古屋大学減災連携研究センター助教)

 その①では2012年8月29日に発表された南海トラフ巨大地震の被害想定について、2003年の想定との違いをチェックしました。今回は、建物被害の想定について考えてみます。

個別の被害について見ていく前に抑えておくべきポイントは、被害想定の結果である数字が意味するところです。被害想定の第一次報告書には、被害想定の意義について「防災対策を講ずることによる具体的な被害軽減効果を示すことで、防災対策を推進するための国民の理解を深めるものである」と明記されています。このことについて私は、「被害量の絶対値よりも、対策実施による被害量の変化の方が重要な情報である」と理解しています。すなわち、「死者が最大で何万人」という数字よりも、「どういう対策をやった場合に被害が何%軽減できる」という数字に注目すべきだし、それを一般市民の方に上手に伝えることが対策の推進につながると考えています。

 そこで建物被害については個別の数字ではなく、耐震化率が変化した場合の被害のグラフを見てみましょう(図1)。平成20年時点での住宅耐震化率は全国平均で約79%であり、その場合の全壊棟数は約627,000棟、死者は約38,000人です(注1)。今後、古い建物の建て替えや耐震補強の実施が進むことで、耐震化率が約100%となった場合はそれぞれ約118,000棟、約5,800人となり、この例では死者を85%減らせるという試算になっています。同じ結果でも「約5,800人が亡くなってしまう」と考えるか、「85%の人の命が救える」と考えるかで、対策の有効性が随分違って感じられると思います。今回の被害想定は「科学的に想定可能な最大クラスの地震」を対象にしたものですから、実際の被害が必ずしもこの通りになるとは限りません。被害想定の最大値だけに注目して一喜一憂するのではなく、少しでも前向きに、一歩ずつ対策を進めていくことが重要なのです。

図1被害想定における建物被害と耐震化率の関係(出典:内閣府) ※クリックで拡大

ところで、耐震化率が約100%の時、どうして全壊棟数が0にならないのか?と思われたのではないでしょうか。理由の一つは建築基準法の性質にあると考えられます。建築基準法では「現代の建物として備えるべき最低限度の耐震性(注2)」を定めているにすぎません。従って、たとえ耐震化率が約100%でも、すべての建物がどんな地震にも耐える完璧な耐震性能を備えているわけではないのです。大学の講義で単位を取得した学生の中にも、「優」の人もいれば「ギリギリ可」の人もいるのと同じ事ですね。最低ラインギリギリの建物が、最大クラスの揺れを受けた場合、当然被害を受けてしまうということです。(続く)

注1:2012年の被害想定では複数の震源パターンを設定し、それぞれのパターンで被害を計算している。ここで取り上げた数字は被害が最大となるケースのものとは異なる。また、津波による建物倒壊は含まない。
注2:「震度6強程度の揺れに対して、建物は損傷しても人命を損なわない」という考え方に基づく。そのため、基準ギリギリの建物では震度7の揺れに対して死者が出る可能性があるし、震度6強の揺れに対して大きな損傷を受ける可能性がある。

<参考文献>
南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/2_1.pdf


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